Home 知る まちの今とこれから(まちのこえ)/まちの歴史 金子未弥

金子未弥Miya Kaneko

2017年7月から黄金町アーティスト・イン・レジデンスプログラムに参加している金子未弥(かねこみや)さんが、同年10月東京ミッドタウンが主催する「Tokyo Midtown Award 2017」のアートコンペでグランプリを受賞しました。受賞作である《地図の沈黙を翻訳せよ》は、一般募集した地図に書かれた都市名を黒く着色したアルミ板に刻印した作品で、同年8月に黄金町のスタジオで公開制作されました。そんな金子さんに、今回受賞した作品についてお聞きしました。(2017.11.01)

-今回の作品はアルミという金属板が使われていて、制作中も「コンコン」とまちに響く音が印象的でした。
これまで一貫してテーマとしているのが「都市」なのですが、人が集まって「都市」として発展していく中で、金属は農具とか、武器とか、工業製品とか、形を変えながら広い意味で重要な役割を果たしてきました。素材を選択するにあたり「「都市」における金属」がひとつのきっかけになっていると思います。

-なぜ「都市」をテーマとしているのでしょうか?
初めて「都市」というテーマに気づいたとき、自分の身の回りにある小さなもの、例えば扉とか、道のガードレールとか、何でもそうなのですが、それらは全部「人」が作ったものであって、それらが集まっているものが、私の視界に広がる「都市」なんだと感じました。「つくる」ということは同時に、誰かの思いがこめられているのだと思います。その一つ一つを想像すると、こんなにも膨大なエネルギーがかけられたものに囲まれていて一瞬怖いなとも感じる、すごく強い存在だと思ったんです。それがきっかけでした。

-この生活を構成するもの一つ一つが、全部誰かの手や人生がかかったものだと思うと、大きな広がりを感じますね。金子さんはそういったものを可視化しようとしているのでしょうか?
可視化しようというよりは、見るための努力をしているイメージです。安易にパッと目に見えてわかりやすい形に落とし込もうとすると、私の主観が入りすぎて危険だと思うんですよね。
作品では、都市の名前を刻印しているのですが、それを読んだ人はそれぞれ違うことを考えるのではないかと。自分が住んでいる場所を見つけたり、行ってみたいと思っていた場所を見つけたり、都市の名前を見つけて自分の記憶を思い出す。都市の名前というささやかなきっかけから、そこに生きている人たち、それを見る人たちの主観や状況の多様性を感じられるものを作りたい。それらはきっとみなさんにとっても、私にとっても目に見えないもの。だからこそ想像して考えたいと思っています。

-都市の名前を一文字ずつハンマーで叩いて刻印していく。さきほど「見るための努力をしている」とお話されたことと重なって、まるで金子さんが修行しているようなイメージがしました。笑
笑。黄金町のこのスタジオでは、初めて一般の方から英語の地図を募集しました。いろいろな人が地図を持ってきてくれたのですが、そこで初めて出会う人もいました。すると、その地図に込められているその人の思いなども聞いて、結構考えさせられることも多くて。だから作品も最初想像していたものとは全く違うものになってきましたし、ここでやったことは自分にとって実りがありました。

-地図を通していろいろな人との出会いがあったんですね。中でも印象的なエピソードはありますか?
この都市の名前を刻印する作品シリーズはかれこれ4〜5年続けているのですが、これまでは自分で印刷した地図、自分で集めてきた地図から都市の名前を刻印していました。でもどうしても自分の主観が入ってしまう。それを超えようと今回は初めて、誰かからもらうということを通じて、みんなの思い入れがある場所の名前を集めました。「地図」の解釈も人によって様々ですし、そういったことも含めて作品の可能性が広がったと思います。

-バザールコレクターズ・オークション(※)に出していただいた作品は、白に黒く刻印されていたんですけど、今回は黒に白く刻印されていますね。
素材は同じアルミ板なのですが、表現の技法が違います。今回受賞した新作は、最初にアルミ板をアルマイトで黒くして、その後刻印した部分が無垢のアルミ板の色として現れています。バザールコレクターズ・オークションに出した作品は、ベースはアルミ板そのものの銀色で、最初に刻印して凹んだ字のところに黒い塗料を入れているのです。銅版画のように、全面に黒いインクを塗ってふき取ると、凹みだけにインクが残るということです。

※バザールコレクターズ・オークションは、「黄金町バザール2017」の一環として、黄金町のアーティストが制作した作品を地域の商店や自宅に展示した企画。金子さんは《地図の解体と再構築》という作品を出展。

-今回の新作は、雷光のような、光線のようだと感じました。

そうですね、最初は亀裂のようなイメージで作っていたのですが、日に日に地図が集まると、イメージが変わってきました。いろいろな話を聞くようになって、そこで聞いたエピソードが自分の中では強くて。エピソードが作品上で混ざり合う感覚を抱きました。これは今回の作品の大切な要素になるのではないかと思ったんです。そうすると具体的な形が見えてきたというよりも、どんどん輪郭がなくなって拡散していくような像が出てきて完成しました。

-もらった地図の中の全部の文字を刻印するんですよね?もらった地図が広いエリアだったら大変ですね!
そうですね。やりがいがあります。笑

–地図を持ってきくれた人数、もらった地図の枚数、刻印した都市の数、何か数字は出ますか?

地図を持ってきてくれた人は29人だったと思います。でも、人によって持ってくる地図の枚数が全然違うので、それってあまり基準にならないなと思っています。1枚持ってくる人もいれば、本を何冊分も持ってきた人もいるので。

–この作品が次にどうなっていくかといったような兆しが、制作の最後あるいは今、見えたりしているのでしょうか?

そうですね。作っているとどんどん次にやりたいことが出てきて、そればかり考えています。今一番進めたいのは、「肖像」についての作品です。一人の人から地図をもらって、もらった地図でその人の肖像をつくりたいなと。一見するとなんのつながりもないような場所は、ある人物の豊かな物語によって結びついているんじゃなかと。それを私は「肖像」と呼べるのではないかと考えています。
ずっと「都市」というテーマで制作してきて、今は「肖像」という言葉が出てきたのですが、私が見つけるテーマとして共通するのは、どれも「輪郭がはっきりしないもの」。「都市」についても、「肖像」についても、「これはこれです!」とはっきり言い切れるものではありません。だからこそ私も見る人もお互いに、見えているはずの輪郭を探っていけたらと思っています。

(インタビュアー・編集:立石沙織)

アーティストプロフィール

金子 未弥 Miya Kaneko
1989年神奈川県生まれ。2017年多摩美術大学大学院美術研究科博士後期課程美術専攻修了、博士号(芸術)取得。2017年〜横浜・黄金町レジデンス・アーティスト都市名から人々が抱く記憶やイメージを用いて、「都市の肖像」を求める作品展開を行っている。近年の展示に、2016年個展「金子未弥展-都市の肖像を求めて-」( KOMAGOME1-14cas/東京)2016年「JIGUM Exhibition」( Art District_p, Busan/韓国)

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