村田真 オープンスタジオ
MURATA Makoto Open Studio
2021/10/23 (Sat), 24(Sun), 30(Sat), 31(Sun)

黄金町のレジデンスアーティストで、美術ジャーナリスト、画家の 村田真さんがアトリエを一般公開します。

昨年秋から描きためた「手」のシリーズ約40点を中心に、旧作も含めて計200点ほどを展示中。

黄金町バザール2021 の鑑賞とあわせてご覧ください。

村田真 オープンスタジオ

日時|2021年10月23日(土)、24日(日)、30日(土)、31日(日)各日 14:00〜18:00

場所|MAオフィス(長者町アートプラネット(CHAP)1階)

   231-0033 横浜市中区長者町9-159 田浦ビル1階

入場無料

====オープンスタジオ 前口上====

2020年10月から突然「手」を描き始めました。きっかけは、新型コロナウイルス禍でわが暮らし楽にならざり、じっと手を見る……なんてシャレたもんじゃありません。たまたま本屋で、拳を突き上げるイラストが描かれた画集の表紙に目が止まり、「あ、使えそう」と思ったのがきっかけでした。絵を描くきっかけなんてそんなもんです。ちなみにその画集は『抗議するアートグラフィックス』(グラフィック社)。

なぜ拳のイラストに反応したのかといえば、当時ぼく自身なんとなく拳を突き上げたい気分だったからでしょう。振り返ってみると、その少し前に、小役人風情の菅総理が誕生、直後に日本学術会議の任命拒否問題が発覚し、いやな気分になりました。海外では、香港やミャンマーの民主化闘争が次々に潰されていたのもこの時期です。そんな鬱屈していたところに拳の絵が目に入って、手だけでなにか表現できないかとひらめいたのです。たぶん。

画集の表紙は拳を突き上げるだけですが、中指を立てたらもっと挑発的になるんじゃないか。そういえば、マウリツィオ・カテランは中指を立てた彫刻をつくっているし、アイ・ウェイウェイは天安門広場やホワイトハウスに向けて中指を突き立てた写真を撮っているけど、絵に描いた人はあまり知りません。どうせなら、中指を立てた絵と、親指を下に向けた絵をセットで見せよう。さらに、人差し指と中指のあいだから親指を出したり、人差し指、中指、薬指を立てた絵も描いてみようと。

いろいろな手のポーズを試しているうちに、名画に現れる手のしぐさを自分の手で再現して描くことを始めました。レオナルドの《ヨハネ》の右手、エッシャーの手を描く手、仏像の手、ニジンスキーの手、ベン・シャーンのペンを持つ手、デューラーの祈る手、雪舟の《慧可断臂図》、グリューネヴァルトの磔刑図、鶴岡政男の《重い手》、ケーテ・コルヴィッツの顔を覆う手、ヴィト・アコンチの《センターズ》など。名画と重ねて自分の手を描く、さらにその手を描く手を描く……。描いているうちに内容も描き方もどんどん変化していきました。

こうして1年足らずのあいだに40点ほど描いたら、不思議なことに、急に興味が失せてしまいました。描き始めるのも突然なら、終わるのも唐突です。描き尽くしたという達成感があるわけではないし、かといって描き尽くせないというもどかしさもなく、ただ終わりが来たという感じ……。ご笑覧いただければ幸いです。

2021年10月 村田 真

村田 真(美術ジャーナリスト)
1954年、東京生まれ。東京造形大学卒業。『ぴあ』編集部を経てフリーランスの美術ジャーナリスト。おもな著書に『美術家になるには』『アートのみかた』など多数。2005年から絵画制作を再開し、ナディッフギャラリー、BnakARTスタジオNYKなどで個展。東京造形大学・慶応義塾大学非常勤講師、BankARTスクール校長を務める。